生物学的製剤(注射の治療)

<注射のお薬>

リウマチの特効薬「生物学的製剤(せいぶつがくてき せいざい)」

リウマチの治療を桁違いに良くしてくれたのが、この生物学的製剤(せいぶつがくてき せいざい)と言われる注射のお薬の登場になります。 生物学的製剤を一言で説明すると、「ここがリウマチ治療のポイントだという一点に狙いを定めて、徹底的に治療するお薬」になります。何事もそうかもしれませんが、色んな事に手を出して意識や力が分散してしまうより、1つの事に集中すると大きな力と成果を生み出す、そんな人生の教訓にも似たイメージのお薬になるかもしれませんね。 そのため、メトトレキサートで治療をしても抑えられない強いリウマチの方でも、この生物学的製剤という注射のお薬を追加すると、多くの方でスッキリ痛みや腫れがなくなりリウマチが良くなられます。 私自身もリウマチ医になりたての頃、手や足がものすごく腫れてしまい、歩くのもままならなず入院されたリウマチの方が、この生物学的製剤を注射した翌日には、痛みも腫れが良くなり、スタスタと歩かれ退院されていくのをみて、まさにリウマチの特効薬だなと感動したのを今でも覚えております。

主治医の先生と一緒に、あなた合う生物学的製剤を見つけましょう

この生物学的製剤は、リウマチを引き起こしている原因のうち、何を狙って治療するかという点で大きく3種類に分けられます。TNFというリウマチの原因物質を治療する「TNFタイプ」、同じくIL6というリウマチの原因物質を治療する「IL6タイプ」、T細胞という暴れている免疫細胞の親玉を治療する「T細胞タイプ」に分けられます。 それぞれ、狙って治療をするポイントが違いますが、どのタイプの生物学的製剤もその効果に優劣はなく、みんな優秀でリウマチに良く効きます。 ただ、人によってどのタイプの生物学的製剤が合っているかは、多少変わってきます。例えばTNFタイプの生物学的製剤の効き目がイマイチな方でも、IL6タイプやT細胞タイプの生物学的製剤に変更すると凄く良く効くなんて事もあります。またその逆のパターンもあります。なので、もし最初に選ばれた生物学的製剤の効果がイマイチでも、他の生物学的製剤に変える事で効果が期待できますので、気落ちせず主治医の先生とご相談くださいね。 またメトトレキサートと一緒に使ったほうが良い生物学的製剤や、妊娠授乳中でも使える生物学的製剤など、少しずつ個性がありますので、あなたにはどの生物学的製剤が一番良さそうなのかを、主治医の先生と相談しながら決められていくのが良いかと思われます。

生物学的製剤の種類と特徴

TNFタイプ TNFというリウマチの原因物質を狙って治療します
  • エンブレル:妊娠・授乳もOK。エタネルセプトBSというお安い後発品も登場
  • ヒュミラ:世界で一番使われている生物学的製剤。アダリムマブBSというお安い後発品も登場
  • シンポニー:効果不十分の方には、2倍量でも治療できる
  • シムジア:妊娠・授乳もOK。最初の3回は2倍量で一気にリウマチを治療
  • レミケード:一番古い生物学的製剤。注射ではなく点滴。
  • IL6タイプ IL6というリウマチの原因物質を狙って治療します
  • アクテムラ:メトトレキサート無しでも良く効く、お値段安め
  • ケブザラ:メトトレキサート無しでも良く効く、2種類の量が選べる
  • T細胞タイプ T細胞という免疫細胞の親玉を狙って治療します
  • オレンシア:結核などの感染症が少ないと言われています

生物学的製剤での治療を考えるタイミング

そんなリウマチへの効果抜群の生物学的製剤、最初から使えばいいんじゃないの?という声もあるかと思います。 もちろん、リウマチと診断して早めに生物学的製剤の治療を始められる方もいらっしゃいます。 ただ、3割負担で月2000-3000円程度のメトトレキサートに比べて、生物学的製剤は種類にもよりますが月1-4万円程度と少しお薬代がかかります。 また、生物学的製剤まで使わなくても、メトトレキサートだけで良くなるリウマチの方が6割以上いらっしゃる事などもあり、まずはメトトレキサートで治療を行い、それでもリウマチが良くならない方に生物学的製剤を考えるのが現在のリウマチ治療の流れになっております。 ただ、妊娠を検討されていてメトトレキサートが使えない方には、最初から妊娠中も使える生物学的製剤(エタネルセプトやシムジア)で治療を開始したりします。 また、口内炎などでメトトレキサートが十分増やせない方でも、早めに生物学的製剤の治療を開始したりします。 このように、同じリウマチという病気を抱えられていても、お1人お1人で状況も異なりますので、このまま飲み薬で行くのか、生物学的製剤を追加するのか、主治医の先生とご相談しながら、ご自分のご希望もお伝え頂いて一緒に決めて行かれると宜しいかと思います。

注射も慣れますので、ご安心くださいね

まず注射であるという点では、正直飲み薬に比べると少し抵抗があるかと思います。たしかに一昔前までは、針の出た注射器タイプの生物学的製剤しかありませんでした。しかし、最近ではノック式のボールペンの仕組みで、ワンクリックで針が見えないペン型タイプが登場し人気です。 ~ペン型タイプは非常に注射が簡単~ ①足やお腹など注射する場所をアルコール綿で拭く ②ペン型の生物学的製剤を皮膚に押し付けてボタンを押す。 (すると自動的に針がでてお薬が注射されます) ③10~15秒すると注射がおわりますので、皮膚からペン型の生物学的製剤を離して終了 (これまた自動で針が収納されます) クリニックで看護師さんと一緒に注射の練習をされると、大体の方が「あ、思っていたより簡単ですね。これならできます」と一度でマスターされ、次からはご自分で自宅等で注射をされております。 注射の頻度も、生物学的製剤の種類によって変わっても来ますが「1-2週間に1回」で済みますので、毎日3-4回注射される糖尿病の方のインスリン注射とは違って、少ないものとなります。 また、注射であるというのは悪い事ばかりではありません。飲み薬と違って口からはいるものではありませんので、飲み薬に見られるような吐き気や胃の痛み、下痢などといったお腹のトラブルがほとんどありません。飲み薬のように肝臓や腎臓で分解される事も無いので、肝臓や腎臓に負担をかける事もありません。 感染症という注意点はございますが、これは飲み薬でも同じ注意点になりますので、逆に「飲み薬よりも楽ですね」という方もいらっしゃいます。なので、ぜひあまりご不安になられずに、必要な時は生物学的製剤の治療もご検討頂けると、リウマチも良くなって安心かと思います。

<新しい薬>

生物学的製剤に負けない飲み薬「JAK阻害剤」
現在一番新しいタイプの薬が、このJAK阻害剤というグループのお薬になります。 生物学的製剤がTNFやIL6など、リウマチの原因物質のうち1つに狙いを定めて、集中的に治療したのに対して、このJAK阻害剤はもう少し幅広く、いくつかのリウマチの原因物質をまとめて治療します。 魚釣りに例えさせて頂くと、カツオの一本釣りの生物学的製剤に対して、地引網で数種類の魚をとる漁のスタイルがJAK阻害剤といった感じでしょうか。 このJAK阻害剤の特徴としては、なんといっても飲み薬にも関わらず、生物学的製剤と同じ位かそれ以上にリウマチに良く効くという点です。 ネックとしては、まだ新しいお薬である事もあって、お薬代が3割負担で月4万円以上と、生物学的製剤以上にお薬代がかかる点になります。 ただ、このJAK阻害剤は、色々な生物学的製剤が効かずお困りのリウマチの方も、良くなられる可能性があります。そのため、現在次々と新しい種類のJAK阻害剤が開発されております。
JAK阻害剤の5種類
ゼルヤンツ(2013年登場) オルミエント(2017年登場) スマイラフ(2019年登場) リンヴォック(2020年登場) ジセレカ(2020年登場)