リウマチのお薬

4、リウマチはどんな治療をするの?

さて、手や指の痛みの原因がリウマチであると診断されたら、リウマチの治療を始める事が大切になります。
「リウマチの薬って飲み薬ですか?注射もあると聞きました」
「お薬はどれくらいで効いてくるんですか?」
「何かお薬で注意する事はありますか?」
など、リウマチの治療についてのご質問も多く頂きます。

まずリウマチの治療はここ十数年で、新しい良いお薬がどんどん登場し、凄く進歩しました。一昔前までは、リウマチの痛みを無くす事が出来なかったり、リウマチの進行を止める事ができなかったので、多くの方が治療をしながらも痛みを抱え、そして手足が変形し曲がってしまい、生活に不自由をされたり、整形外科さんで手術を受けられておりました。しかし、現在の新しいリウマチのお薬は、しっかりとリウマチの痛みを無くし、さらにリウマチの進行自体を抑えるので、手足の変形が進まれてしまう方は、ずいぶんいらっしゃらなくなりました。
またお薬も種類も増えたので、お1人お1人に合ったお薬が見つかるようになりましたので、ぜひ安心して治療をして頂ければと思います。
そんなリウマチの治療の中心は、「飲み薬」と「注射」のお薬になります。

<飲み薬のご紹介>

飲み薬の代表「メトトレキサート」(=メトレート、リウマトレックスも同じお薬です)
このメトトレキサートは、現在のリウマチの治療で一番多くの方が使われているお薬で、約8割のリウマチ患者さんがメトトレキサートで治療されております。
その特徴は、「リウマチにとても良く効き、お薬代もお手頃価格」という点です。一言でいうと「コストパフォーマンス抜群のお薬」といった感じですね。

メトトレキサート
①メトトレキサートってどんなお薬?

みなさんは「葉酸(ようさん)」という言葉を聞いた事がありますでしょうか?ビタミンの一種で、最近ではコンビニのサプリメントコーナーにも、葉酸のサプリが置いてあったりします。また、出産をご経験の方では、妊娠中に葉酸をとるようにと、産婦人科の先生からアドバイスがあった方もいらっしゃるかもしれません。
このビタミンの一種である葉酸は、私たちの体を作っている細胞たちが活動したり、分裂するのに必要な材料になります。なので、お腹の中にいる赤ちゃんが、すくすく成長するのに特に葉酸が大切なんですね。しかし、リウマチの事を考えると、痛みを起こしている手指や足の関節の中で、悪い免疫細胞が葉酸をじゃんじゃん使ってどんどん分裂し、暴れまわっています。
そこで、この痛い関節の中で暴れている免疫細胞に、葉酸を使わせないようにして、徐々に大人しくさせてリウマチを治していこうというのが、メトトレキサートになります。

②メトトレキサートは週1-2日、決まった曜日に飲みましょうです

そんなメトトレキサートが他のお薬と一番違うのは、飲み方になります。 決して他の薬のように毎日飲んではいけません。1週間のうちの決まった曜日に、1-2日間だけ飲む薬になります。「月曜日の朝と夕、火曜日の朝に1錠ずつ飲んでくださいね」といった、主治医の先生や薬局の先生からお伝え頂いた飲み方を、忘れないようにしてくださいね。
「うーん、ちょっと難しい飲み方だなぁ」と思われた方もいるかもしれません。ただ、この飲み方にはちゃんと理由があるんです。
なんでこんな変わった飲み方をするのかというと、先ほど「メトトレキサートは、関節で暴れている免疫細胞に葉酸を使わせないことで大人しくさせて、リウマチを治していくんですよ」とお伝えさせて頂きました。ただ、体の中にある他の良い細胞たちも、葉酸を使って活動し分裂もしています。ですので、メトトレキサートがずっと体の中にあると、良い細胞達も葉酸を使う事ができずに困ってしまいます。そうなると、口内炎ができたり、肝臓の数値が高くなったりとトラブルがでてくる事があります。
そこで、メトトレキサートを飲むのは1週間のうち1-2日間だけ、残りの5-6日間は飲まない日を作る事で、葉酸をじゃんじゃん使って暴れている免疫細胞だけ大人しくさせ、他の良い細胞にはご迷惑をかけることなく葉酸を届けて使って頂く事ができます。
さらに、メトトレキサートを飲み終えた翌日に「フォリアミン」という葉酸を補充する事で、良い細胞たちによりご迷惑をかけない様に工夫し、よりトラブルなく安心した治療ができます。「2日間葉酸をお渡しできなくてごめんね」といって、葉酸を補充してあげるイメージですね。

③メトトレキサートはゆっくりじわじわ効果が出てきます

飲んだらすぐ効く痛み止めのお薬と違って、メトトレキサートは暴れている免疫細胞を徐々に大人しくさせてリウマチを良くしていきますので、2~4週間かけてジワジワ効果が出てくるお薬になります。なので、一回飲んで「あんまり効き目が無いな」と思われずに、今飲まれているメトトレキサートの効果が出てくるまで、1か月程度見て頂けると良いかと思います。
また、メトトレキサートは最大で週8錠まで飲めるのですが、最初から多い量で治療をすると、吐き気や口内炎などのトラブルが起きやすくなります。ですので、まずは体に慣れて頂くためにも、週3錠前後の少ない量のメトトレキサートで治療を開始する事が多いです。そして一か月後などに診察をさせて頂き、その効果や飲み合わせを確認して、必要があればメトトレキサートを1錠増やします。そのまた一か月後に診察をさせて頂き、必要があればまた1錠増やすといった感じで、効果や飲み合わせを確認しながら、少しずつ量を増やしていくのがメトトレキサートになります。
なので、メトトレキサートが十分な量に増えるまで数か月と時間はかかりますが、安全にリウマチをしっかり良くしていく為に、少しお時間を頂戴できますと幸いです。

長年親しまれている「アザルフィジン」(=サラゾスルファピリジン)

アザルフィジンは、メトトレキサートが登場する前からリウマチの治療に使われてきた、歴史あるお薬になります。オレンジ色で少し粒が大きいので、「柿の種」の愛称で皆さんに親しまれています。
メトトレキサートに比べると少し効果が弱いため、リウマチ飲み薬の主役の座はメトトレキサートに譲りましたが、それでもまだまだ活躍の場は多く、

  • メトトレキサートで治療をされている方に、アザルフィジンを追加する事でさらにリウマチが良くなる。
  • ご高齢や腎臓が悪いなどの理由でメトトレキサートが使えない方を、アザルフィジンで治療する。
  • 妊娠を考えられていてメトトレキサートが使えない方を、アザルフィジンで治療。

などの場面で使われております。

飲み方もメトトレキサートに比べて簡単で、曜日を気にせず毎日朝と夕に飲んで頂くお薬になります。

痛み止めから生まれた「ケアラム」(=イグラチモド)

ケアラムは10年程前に日本で開発された、リウマチの飲み薬になります。もともとは痛み止めのお薬でしたが、リウマチの炎症を抑える効果が見つかり、リウマチのお薬となりました。
効果はちょうどアザルフィジンと同じ程度で、メトトレキサートより少し弱い感じです。
特徴としては、もともとは痛み止めであった事もあり、痛みを抑える効果が高いと言われております。
活躍の場は、効果が同程度のアザルフィジンと似ていて、

  • メトトレキサートで治療をされている方に、ケアラムを追加する事でさらにリウマチが良くなる。
  • ご高齢や腎臓が悪いなどの理由でメトトレキサートが使えない方に、ケアラムで治療。

などになります。

お薬の微調整ができる「タクロリムス」(=プログラフ)

タクロリムスも日本で開発されたお薬になります。効果としてはやはりメトトレキサートより少し弱いものの、アザルフィジンやケアラムと同程度となります。
特徴としては、他のリウマチのお薬と違って、血液検査で体の中のお薬濃度を測れる事です。そのお薬の濃度を確認しながら、より細かくお薬の量を調整する事が出来ます。
また、他のリウマチのお薬の効き目を高めるという、アシスタント的な働きもあると言われています。
そんなタクロリムスの活躍の場としては、

  • メトトレキサートで治療されている方にタクロリムスを追加する事で、さらにリウマチが良くなる
  • ご高齢などでメトトレキサートが使えない方に、お薬の濃度を測定し微調整しながらタクロリムスで治療

などになります。

歴史あるリウマチのお薬「リマチル」(=ブシラミン)

リマチルもメトトレキサートが登場する前からあり、長年リウマチの治療に使われてきたお薬になります。効果はやはりメトトレキサートより弱いものの、アザルフィジンなどと同程度になります。
特徴としては、お薬の粒も小さく、お値段も安いので、飲みやすいお薬になります。

そんなリマチルの活躍の場としては、

  • メトトレキサートで治療されている方にリマチルを追加して、リウマチをさらに良くする
  • ご高齢や肝臓が悪いなどの理由でメトトレキサートが使えない方に、リマチルで治療

などになります。

上手に使えば効果抜群のお薬「ステロイド」(=プレドニン、プレドニゾロン)

ステロイドと聞くと、皮膚科さんで頂く、塗り薬のイメージがあるかもしれません。また、週刊誌などを読まれて、ちょっと強い薬で怖い印象がある方もいらっしゃるかもしれません。
確かに少し使い方には注意が必要ですが、上手に使えば、リウマチの痛みや腫れをすぐに良くしてくれる役立つお薬になりますので、ご安心してくださいね。
ステロイドの特徴は、なんといってもその効き目の良さと速さになります。リウマチでは主に飲み薬のステロイド(プレドニン、プレドニゾロンなど)を使いますが、メトトレキサートや生物学的製剤と同じ位にリウマチに良く効き、しかも飲んだ翌日には腫れや痛みが軽くなるほど、即効性のあるお薬になります。数か月かけてゆっくり効いてくる、他のリウマチの飲み薬にはない長所ですよね。この長所を活かして、リウマチの治療が始まったばかりの方に、他のリウマチのお薬と一緒に使われたりします。そして、他のリウマチのお薬の効果が出てくる時期に合わせて、ステロイドは少しずつ減らして止めていくような使い方もします。主役が活躍するまでの場を繋ぐ、前座の名脇役がステロイドといったイメージでしょうか。
また、妊娠中や授乳中の方、腎臓や肝臓が弱っている方など、他のリウマチの飲み薬が使いにくい方でも、ステロイドは使う事ができます。
そんなリウマチに効果抜群のステロイドですが、弱点が一つあり、「沢山の量のステロイドを、長期間使っていると、トラブルが増えてくる」という点です。感染症や、骨が弱くなる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、また脂肪がついて顔がまん丸くなるムーンフェイス、血糖値が高くなる、などのトラブルが出てくることがあります。また、ステロイドを飲み忘れたり、自己判断で急に止めてしまうと、リバウンドが起きてリウマチの痛みがぶり返すだけでなく、吐き気やダルさなどが出てくることがあるので、注意が必要です。 ぜひ主治医の先生のアドバイス通りに、上手にステロイドを使って頂ければと思います。

<注射のお薬>

リウマチの特効薬「生物学的製剤(せいぶつがくてき せいざい)」

リウマチの治療を桁違いに良くしてくれたのが、この生物学的製剤(せいぶつがくてき せいざい)と言われる注射のお薬の登場になります。
生物学的製剤を一言で説明すると、「ここがリウマチ治療のポイントだという一点に狙いを定めて、徹底的に治療するお薬」になります。何事もそうかもしれませんが、色んな事に手を出して意識や力が分散してしまうより、1つの事に集中すると大きな力と成果を生み出す、そんな人生の教訓にも似たイメージのお薬になるかもしれませんね。
そのため、メトトレキサートで治療をしても抑えられない強いリウマチの方でも、この生物学的製剤という注射のお薬を追加すると、多くの方でスッキリ痛みや腫れがなくなりリウマチが良くなられます。
私自身もリウマチ医になりたての頃、手や足がものすごく腫れてしまい、歩くのもままならなず入院されたリウマチの方が、この生物学的製剤を注射した翌日には、痛みも腫れが良くなり、スタスタと歩かれ退院されていくのをみて、まさにリウマチの特効薬だなと感動したのを今でも覚えております。

主治医の先生と一緒に、あなた合う生物学的製剤を見つけましょう

この生物学的製剤は、リウマチを引き起こしている原因のうち、何を狙って治療するかという点で大きく3種類に分けられます。TNFというリウマチの原因物質を治療する「TNFタイプ」、同じくIL6というリウマチの原因物質を治療する「IL6タイプ」、T細胞という暴れている免疫細胞の親玉を治療する「T細胞タイプ」に分けられます。
それぞれ、狙って治療をするポイントが違いますが、どのタイプの生物学的製剤もその効果に優劣はなく、みんな優秀でリウマチに良く効きます。
ただ、人によってどのタイプの生物学的製剤が合っているかは、多少変わってきます。例えばTNFタイプの生物学的製剤の効き目がイマイチな方でも、IL6タイプやT細胞タイプの生物学的製剤に変更すると凄く良く効くなんて事もあります。またその逆のパターンもあります。なので、もし最初に選ばれた生物学的製剤の効果がイマイチでも、他の生物学的製剤に変える事で効果が期待できますので、気落ちせず主治医の先生とご相談くださいね。
またメトトレキサートと一緒に使ったほうが良い生物学的製剤や、妊娠授乳中でも使える生物学的製剤など、少しずつ個性がありますので、あなたにはどの生物学的製剤が一番良さそうなのかを、主治医の先生と相談しながら決められていくのが良いかと思われます。

生物学的製剤の種類と特徴

TNFタイプ TNFというリウマチの原因物質を狙って治療します

  • エンブレル:妊娠・授乳もOK。エタネルセプトBSというお安い後発品も登場
  • ヒュミラ:世界で一番使われている生物学的製剤。アダリムマブBSというお安い後発品も登場
  • シンポニー:効果不十分の方には、2倍量でも治療できる
  • シムジア:妊娠・授乳もOK。最初の3回は2倍量で一気にリウマチを治療
  • レミケード:一番古い生物学的製剤。注射ではなく点滴。
  • IL6タイプ IL6というリウマチの原因物質を狙って治療します
  • アクテムラ:メトトレキサート無しでも良く効く、お値段安め
  • ケブザラ:メトトレキサート無しでも良く効く、2種類の量が選べる
  • T細胞タイプ T細胞という免疫細胞の親玉を狙って治療します
  • オレンシア:結核などの感染症が少ないと言われています

生物学的製剤での治療を考えるタイミング

そんなリウマチへの効果抜群の生物学的製剤、最初から使えばいいんじゃないの?という声もあるかと思います。
もちろん、リウマチと診断して早めに生物学的製剤の治療を始められる方もいらっしゃいます。
ただ、3割負担で月2000-3000円程度のメトトレキサートに比べて、生物学的製剤は種類にもよりますが月1-4万円程度と少しお薬代がかかります。
また、生物学的製剤まで使わなくても、メトトレキサートだけで良くなるリウマチの方が6割以上いらっしゃる事などもあり、まずはメトトレキサートで治療を行い、それでもリウマチが良くならない方に生物学的製剤を考えるのが現在のリウマチ治療の流れになっております。
ただ、妊娠を検討されていてメトトレキサートが使えない方には、最初から妊娠中も使える生物学的製剤(エタネルセプトやシムジア)で治療を開始したりします。
また、口内炎などでメトトレキサートが十分増やせない方でも、早めに生物学的製剤の治療を開始したりします。
このように、同じリウマチという病気を抱えられていても、お1人お1人で状況も異なりますので、このまま飲み薬で行くのか、生物学的製剤を追加するのか、主治医の先生とご相談しながら、ご自分のご希望もお伝え頂いて一緒に決めて行かれると宜しいかと思います。

注射も慣れますので、ご安心くださいね

まず注射であるという点では、正直飲み薬に比べると少し抵抗があるかと思います。たしかに一昔前までは、針の出た注射器タイプの生物学的製剤しかありませんでした。しかし、最近ではノック式のボールペンの仕組みで、ワンクリックで針が見えないペン型タイプが登場し人気です。

~ペン型タイプは非常に注射が簡単~

①足やお腹など注射する場所をアルコール綿で拭く
②ペン型の生物学的製剤を皮膚に押し付けてボタンを押す。
(すると自動的に針がでてお薬が注射されます)
③10~15秒すると注射がおわりますので、皮膚からペン型の生物学的製剤を離して終了
(これまた自動で針が収納されます)

クリニックで看護師さんと一緒に注射の練習をされると、大体の方が「あ、思っていたより簡単ですね。これならできます」と一度でマスターされ、次からはご自分で自宅等で注射をされております。
注射の頻度も、生物学的製剤の種類によって変わっても来ますが「1-2週間に1回」で済みますので、毎日3-4回注射される糖尿病の方のインスリン注射とは違って、少ないものとなります。

また、注射であるというのは悪い事ばかりではありません。飲み薬と違って口からはいるものではありませんので、飲み薬に見られるような吐き気や胃の痛み、下痢などといったお腹のトラブルがほとんどありません。飲み薬のように肝臓や腎臓で分解される事も無いので、肝臓や腎臓に負担をかける事もありません。
感染症という注意点はございますが、これは飲み薬でも同じ注意点になりますので、逆に「飲み薬よりも楽ですね」という方もいらっしゃいます。なので、ぜひあまりご不安になられずに、必要な時は生物学的製剤の治療もご検討頂けると、リウマチも良くなって安心かと思います。

<新しい薬>

生物学的製剤に負けない飲み薬「JAK阻害剤」

現在一番新しいタイプの薬が、このJAK阻害剤というグループのお薬になります。
生物学的製剤がTNFやIL6など、リウマチの原因物質のうち1つに狙いを定めて、集中的に治療したのに対して、このJAK阻害剤はもう少し幅広く、いくつかのリウマチの原因物質をまとめて治療します。
魚釣りに例えさせて頂くと、カツオの一本釣りの生物学的製剤に対して、地引網で数種類の魚をとる漁のスタイルがJAK阻害剤といった感じでしょうか。
このJAK阻害剤の特徴としては飲み薬にも関わらず、生物学的製剤と同じようにリウマチに良く効くという点です。
ネックとしてはとても高価なお薬で、3割負担でも月4万円以上がお薬代でかかってしまう点です。その為、当院では皆さんがお薬代の面でも安心して治療を継続できるように、JAK阻害剤は使わずメトトレキサートや生物学的製剤など、他のリウマチの治療を行う事を優先しております。

JAK阻害剤の5種類
ゼルヤンツ(2013年登場)
オルミエント(2017年登場)
スマイラフ(2019年登場)
リンヴォック(2020年登場)
ジセレカ(2020年登場)